暑さに耐えて毎日のごはんを作る、その時間とエネルギーの量はハンパではないのだ!と誰もが認識して欲しい
「うわー、暑っい!ここ、とても長くはいられないわー」
冷蔵庫の飲み物を取りにキッチンに入って来たムスメ、
コップに麦茶を注ぎながらそう言った。
ロンドンでは連日35度にもなる日が続いている。
クーラーどころかまともな扇風機も無い我が家では四方の窓を全開にしても熱波だけが吹き込み、全く涼しさを感じられない。
キッチンは家の中で一番暑い場所なのだ!
中でもキッチンはフラットの構造上風通しがすこぶる悪い。
暑い日は20年物の冷蔵庫がブンブン不穏な音を立て、私をビビらせている。
特に午後から夕方にかけて物凄い勢いで空気が煮詰まってくるようだ。
夕飯の支度の時間、包丁を使っているだけで汗がにじみ出てくる。
いかに火を使わないで、手早く手抜き料理をするかに心を砕いているが、それでもキッチンに立って作業をしないわけにはいかない。
暑いイコール切れやすい?
そこに持って来てムスメの、
「こんなとこ、とてもいらんない」発言にピキッとこめかみ辺りがキレそうになった。
料理には全く関心がなく、テーブルに出て来たものが自分の好きなものか、そうでないかにしか興味のない我がムスメ。
オマケに「ご飯だよー」と呼んでからも、いつになっても自分の部屋から出て来ない。
嫌〜な習慣が長いこと続いている。
理由としては、
*お楽しみ中のユーチューブが終わるまでやめられないのが一つ。
*部屋にいる時はアラレもない格好をしているので思い腰を上げて着替えて出てくるのが一つ。
*一緒に食卓を囲んでいると親につまらないことを聞かれるのではないかと懸念しているのが一つ。
*単にティーンエイジャーにありがちななプリンセス的態度が一つ。
夫と私が殆ど食べ終わった頃にフラ〜ッとやって来て、殆ど冷めた食事をつつきながら「まだ十分温かいよ」とかうそぶいている。
そんなアレコレがものの1秒で私の既に熱くなっていた頭を駆け巡り、無性に腹立たしい気持ちになった。


となるべく静かに、でもぶつけるように言ってみた。
「え? あ、うん」
と不意を突かれたように反応するムスメ。
こちらは一度湧き上がって来た怒りが止まらず、
「こんな暑い時本当はママだって食事の支度なんかしたくない、それぞれ勝手にパンでも何でも食べてて欲しい」
と重ねて言い、
「それでも皆んなの健康管理をするのがママの役割だと思って、汗だくで買い物に行って、こうやってサウナみたいなキッチンでゴハンの支度をしてるのよ、毎日毎日」
と恩着せがましく続け、
「そうして作ったご飯を”気が向いた時に食べればいいんでしょ”っていう態度でいつも冷めるまで放って置かれるの、ほんっと腹立つ!」
と最後は切れた勢いで締めくくった。
ついでにイヤミをぶつける自分にもウンザリ
本当はもっともっと言ってやりたいことは山ほどあった。
だがこの怒りがムスメに対してなのか、単に暑さやその他諸々のことでで苛立っている気持ちが噴出したのか分からなくなっていた。
まあ両方だったと思う。
そう思えばムスメからしたら飛んだトバッチリだが、いったん興奮した怒りの感情のコントロールは難しい。
頭に血が昇るとただでさえ暑いのが更に暑くなってしまう。
自分の気持ちを落ち着けるために息をゆっくり吐き切ってから静かに呼吸する。
ムスメはキレた様子ながらも包丁の手を休めない母親をアブナイと思ったのか、
「うん、そうだよね」
と小さく言い、
「ワタシ買い物手伝うって前も言ったよ。朝は偏頭痛がまだひどいんだけど、今度一緒に行くようにするし」
と早口に言い残して自分の部屋に逃げ去ってしまった。
「どこでもドアがあるわけじゃないのよ」とツイートした主婦に共感
「あー、スッキリしない」
思えばつまらないことを子供に向かって恩着せがましく言ったものだと、自分の弱さにうんざりする。
「でも言いたい時もあるよね。人間だもの」
と同時に自分を慰めてもみる。
「家庭で食事の支度を全て請け負う立場の人(多くは主婦)がドラえもんの”どこでもドア”を持っているわけではない」
って、ツイートしていたのはタイの主婦だったか?
家事にまつわる「あるある」記事を読んだことがある。
食事の支度とは料理だけを指すわけではない
食事の支度と一口に言っても、それには献立て、買い物、食材の管理、実際の料理、同時の洗い物の数々、ゴミの処理、と全部含まれているのだ。
これらを毎日毎日、多くの場合は家族の中の誰か一人が1年365日続ける。
掃除洗濯は1日送らせても、食べることはそうはいかない。
それがどれ程の時間とエネルギーを消費するのか、やったことの無い人には想像もつかないのだ。
それにしても今年(2020年)のロンドンの暑さはどうだ。
夏といえど日本ほどの暑さにはならないのが普通だったイギリス。
それでも地球温暖化でここ数年の夏の様子が変わって来た。
4月、5月には記録的な乾期を経験し、
7月は記録的に平均気温が低くなり、
8月に入っては、35度の暑い日が連日続いている。
暑さとロックダウンの閉塞さがせめぎ合って、人の気持ちを余計イライラさせる。
まずは自分の気持ちを整理しよう
「あー、こんな風でいたくなーい!」
自分に水やりを忘れておいて、不平不満を言うな馬鹿者よ
というような内容の詩を残したのは茨木のりこだった。
今更ながらに痛い言葉だが、でも本当だ。
自然に雨が降ってくるのを待っていても仕方がないのだ。
環境は変えられない、変えられるのは自分だけ。
「水やりは自分で」と張り紙を


「ゴハンよー」と呼んでから5分ほどで食卓に現れた。
あんれまあ、多少は感じるものがあったのだろうか。
どれだけ続くのか見ものだけど、ムスメも一応気を使っているのは読み取れる。
私は私で先ほどの罪の意識もすっかり薄れ、お互いに気まずい素振りもなく食べ始めた。
(夫は娘が一緒に食卓についたのをただ喜んでいる)
こんな不安定な母親に気を使わずに済むよう早く自立してどこへでも行ってくれ、とも思うが、今はまだ一緒に暮らす未成年の家族なのだ。
それにしても買い物を手伝うなら本格的に暑くなる前の時間に起きて来いよ!
その時はアイスクリーム買ってやるからなあ〜。
こちらの暑い日メニューも参考にしてください!