エリザベス女王葬儀に思うイギリスらしさとは?
2022年9月19日、イギリスのエリザベス女王の葬儀がおごそかに執り行われた。
世界各国からのロイヤルファミリーや政府要人、
沿道や広場に携帯を片手に溢れる人々、
次から次へとブラスバンドやバグパイプの音楽に乗って行進する軍隊、
それだけの賑やかさ、華やかさ、物々しさを持っても葬儀は終始荘厳な雰囲気に満ちていた。
少なくとも私にはそう感じられた。
理由はひとえに「エリザベス女王」の葬儀だったからにほかならない。
全ての物々しさを締める人がそこにいたのだ。
なぜ棺は砲台の上に載せられるの?
女王の棺は砲台に載せられて人々の間を進む。
理由は女王(または王)がイギリスの全ての軍隊の総司令官だからだ。
女王も生前は軍服の正装をされることもあったし、
後に続くチャールズ王、アン王女、ウィリアム王子、エドワード王子も軍服だった。
(王族のタイトルを返上しているハリーはスーツ姿、
エドワードは近年明るみに出たスキャンダルでタイトルを解任されたようでこちらもダークスーツだった。)
平穏とは程遠い女王の人生
テレビ中継を見ていただけの私だったが、女王の棺を載せた砲台が静かに動き出した時は図らずも涙がこぼれ落ちた。
私はロンドンに30余年住んではいるがイギリス人ではないし、王室のファンでもない。
ロイヤルファミリー絡みのゴシップにも興味がない。
実像を見たこともなければNetflixのドラマも観ていない。
それでも彼女は常にそこにいた。
70年間の長きに渡り国の頂点、顔として立ち、
4人の子供を産み、
うち2人の息子達のスキャンダルに長年悩まされ、
女王を含む王室への批判を浴び、
その存在意味を問われ、
その中でも忙しい公務を滅多に休むこともなく働き続け、
昨年には夫を見送り(生前は色々とお騒がせなエジンバラ公でもあった)、
自らの死の3日前には新首相トラスに満面の笑顔で謁見し、
最後の最後まで女王としての務めを全うしたエリザベス。
いや今こうして人々の喧騒をよそに粛々と中を進んでいる間も、英国女王としての務めは続いている。
埋葬されるその瞬間までその役目は続く。
そんな一人の女性の96年の生涯というものを想像して、思わず感極まってしまったのかも知れない。
葬儀はウェストミンスターからウィンザーへ
約2000人が参列したウェストミンスターでの式が終わり、棺はまた外へ運ばれた。
葬列はハイドバークまで進み、そこでガラス張りの霊柩車に移されウィンザー城へ向かう。
今度はウィンザーのチャペルで葬儀が行われるのだ。
家族を含め両方に出席する人たちにはなんと長い1日になることか。
「国葬」と呼ぶに相応しい一大イベント
ロンドンでもウィンザーでも葬列を一眼見ようと大勢の人で溢れかえっていた。
年齢人種を問わずそれはもうすごい人で、テレビからもその熱気が伝わってくる。
女王に敬意を払いたいという人もいれば、携帯でセルフィー撮影に余念のない人もいる。
悼む人、物見高い人、それを含めての国葬。
イギリスの威信を放っての一大イベントだ。
多分女王自身もそれをよく分かっている。
世界各国からの要人をあれだけ集めて、目立ったトラブルもなく滞りなく、よくオーガナイズされていたと思う。
ウェストミンスター寺院だけでも2000人ほどが参列したという。
日本の天皇・皇后もそこに参列されていた。
(テレビには映らなかったけれど、BBCサイトには写真が載せられていた)
王室礼賛派ばかりではないイギリスだけれど、エリザベス女王は別格だと思う国民も多いに違いない。
王室の在り方に賛否両論はあっても、女王は個人として圧倒的に際立った存在だった。
エリザベス女王が任命した首相は15人!
私が渡英した89年の首相はサッチャーだった。
その後メイジャー、ブレア、ブラウン、キャメロン、メイ、ジョンソン、トラスと続くが、エリザベス女王はいつも変わらずその上に存在していた。
またそれが当たり前のように感じられていた。
(他界したサッチャー以外は全員ウェストミンスターに参列していた)
イギリスでは王族は政治に関与しないことにはなっているが、形式だけは新首相は女王または王に任命されなければならない。
エリザベスが父ジョージから王位を受け継いだ時の首相はなんとチャーチルだった!
そんな歴史上の人物と共にイギリスの代表を務めていたとは。
彼女自身が歴史そのものであったのだ。
本当は女王になるはずではなかった?
エリザベスは元々女王になる立場には生まれなかった。
王位につていた叔父エドワードが、ある時王室から脱却してしまったのだ。
自由を好む彼は、社交家であったアメリカ人のシンプソン夫人と結婚し、王位を返上してアメリカへ逃げてしまう。
エドワードに子供はなかった。
それで彼の弟でありエリザベスの父であるジョージがやむなく王位を継ぐことになる。
(映画The King’s Speech の主人公。吃音に悩み、真面目で内気な性格として描かれている。)
そしてジョージ亡き後、長女のエリザベスが女王となった…と女王にまつわる有名な逸話だ。
たまたま女王になった人が、ヴィクトリアの記録を塗り替える70年の統治をすることになった、偶然とはいえ面白い話だね、と語られることが多い。
私は逆だと思う。
エリザベスが女王として選ばれるためにエドワードはいなくなった、彼の思惑が全く及ばないところで。
たまたま女王になったのではなく、なるべくして彼女は女王に選ばれたのだ。
望む望まない拘らず、第2次世界大戦後の激動期70年をイギリスというかくも複雑な国の女王として生きる。
運命というものはやはりある、そう思わずにいられない。
いくらできた人だったとしても、明日のパンの心配をせずに済んだ人でも、
「私だって好きでこんなことやってるんじゃないわーっ!」
と叫び出したい局面がいくつもあったに違いない。
それでも彼女は逃げなかった、最後まで。
国の顔が一新される!?
首相が代ってもエリザベス女王が英国の顔、そんなイメージが強く続いている。
てか、今も続いている、むしろ焼き付いていると言ってもいい。
何しろ在位70年だったのだ。
お札もコインも切手もエリザベス女王の顔、
軍服には「EⅡR」の刺繍、
郵便ポスト、
国の要所とされるありとあらゆる所に「EⅡR」のシンボルが施されている。
ジェイムス・ボンドだって女王陛下の007ではないか…
それを全部これから変えるのかあ…本当にやるの?と、疑いたくなる。
(イヤだそんなの!という声も多いみたいだし、お金も掛かる。)
「それらが消えるのが淋しい」
多くのイギリス国民の気持ちもそこに尽きるんじゃないだろうか。
慣れ親しんだものが消える寂しさ。
エルザベス女王で最も印象深い出来事
エリザベス女王といえば思い出されるのが、オバマ大統領夫妻が訪英された時のことだ。
女王主催の晩餐会で、ディナー前に女王と歓談していたオバマ夫人が思わず取った行動が大変なことに!
翌日の各新聞のトップを占める大ニュースになった。
実は新聞の一面を飾ったスクープ写真には続きがあったことを後に知る。
マナーって何のためにあるの?イギリスのエリザベス女王が見せる本当の礼儀
それを知って私は「これが本当のロイヤルマナーだ」と感動したのだった。
チャールズの時代は何と呼ばれるの?
エリザベスの時代は「Elizabethan(エリザビーサン) Era」と呼ばれていた。
それがチャールズ王になり、今度は「The Third Carolean(キャロリアン) Age」と呼ばれるようになるらしい。
(チャールズという名の王としては3代目なので「The Third」が付く)
そういえば式で国歌斉唱の時、
「ゴッド セイブ ザ クイーン」と歌われていたのが、「ゴッド セイブ ザ キング」にすでに変わっていた。
そうか、戴冠式はまだでも王位はチャールズに移ったのだ。
急に実感となって迫ってきた。
新しい王が就き、
新しい首相が国の舵を取るイギリス。
過去最大の物価高騰、エネルギー費爆上がりで一般の生活がますます厳しくなっている昨今。
一体これからのイギリスはどうなるのか!?
今後のイギリスの行方は?
エリザベス女王も70年の間、
戦後の混迷、
冷戦、
長い間の景気停滞、
北アイルランドとの確執、
フォークランドや湾岸など数々の戦争、
景気バブルとその崩壊、
パンデミック、
と国と時代の移り変わりを見、深く関わってきた。
「それでもなんとかなる、必ず乗り越えていける。今までもそうだったし、何にでも終わりは来るのだから」
そう仰るだろうか、エリザベス女王なら。