「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」を一気に2度読み
ベストセラー「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」に続く第二作。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」 あらすじ
前作に引き続き、舞台はイギリス・ブライトン。
地元の「荒れた学校」を自ら選んで通い始めた息子さん。
学校で出会う様々な家庭環境に育った子供たち、差別やトラブルも多い。
(これらは前作で詳しく)
その中で息子さんが自分で考え、答えを探し、実行する、
彼の成長する姿をお母さんのみかこさんの目を通して綴られている。
また彼の学校を通して背景に見える、底辺層のイギリス社会。
移民問題、土地価格の高騰問題、公共施設への補助の打ち切りなど、ブライトンだけでなく、イギリス全体が抱えている大きな問題の数々。
それらの問題ががブレディさんの近隣の人々エピソードを交えながら浮き上がってくる。
イギリスの「普通の人々」が生きる社会の「ある側面」。
低所得層が、そこから抜けることが難しい社会のシステム。
それらが生々しい現実として、「もう、目に見えるようだわ」という感じに描かれています。
その中でも日々逞しくなっていく息子さん、
ちょっと口は悪くても人情家の父ちゃん、
彼らをまとめるブレディさんの日々の暮らしは結構楽しそうで。
とても読み応えのある一冊、オススメです!
もっと悪くなるイギリス社会?
今回は作者のブレディさん一家が住む地域で起こる、様々な問題が多く取り上げられている。
(2021年9月発行だから、2020年後半辺りからのエピソードが中心だと思う)
元々保守党の台頭以来、国家予算の不足を理由に多くの公共施設や公立学校への補助を打ち切ってきた。
補助をなくされて影響をひどく受けるのは当然、それが生活の大きな助けとなっていた人たちだ。
貧困がさらに加速し、どこに助けを求めていいのかも分からない。
持つ人と持たざる人、それらの差がますます大きくなる。
不公平感が生まれ、間に歪みが生まれる。
コミュニティーの中心だった図書館やユースクラブなどの施設がなくなれば、コミュニテイーそのものが失われてしまう。
地域の雰囲気が、行き場のない人々とその怒りで荒れてしまうことも多いのだ。
ブライトンの移民問題
本書でのエピソードにも登場するが、ブレディさん一家の住むブライトンでは難民を多く受け入れている。
東ヨーロッパ、中東などから政治不安など、事情があってイギリスに流れてきた人々だ。
正式に難民として認められ、福祉に頼って生活してる人も多い。
低賃金の仕事でカツカツの生活を送る人も多い。
そして彼らは押し並べて地域の元々の住人に嫌われている。
自分達も厳しい生活をしている地元の人には、「こっちだって大変なのに」と不公平感が募る、
投資した不動産の近くに移民施設ができたら価格に影響しちゃうよ、
自分達の住む街の雰囲気が変わるのが嫌、
グループだし、英語も話さないし、
文化も習慣も違って何となく怖い、ような気がする、
などなど理由は尽きない。
「中央政府に押しつけられた!」と不満を抱く人も多いと思う。
そしてこの不満がブレクジットを大きく後押ししたのも事実だ。
息子さんの迷い
父ちゃんと息子さんが、話をするようになった移民グループに協力しようとするエピソードがある。
それが元で地域住民とのトラブルにつながり…と繋がっていくのだが。
その過程で色々悩む息子さん、
自分が良かれと思ってしていることは正しいのか、そうではないのか。
これで傷付く人もいるのではないか。
考えは頭の中をぐるぐる回って行き着くところがない。
「正解の無い問い」はこの世の中に沢山ある。
それに一つ一つ向かっていくのが成長というものの。
その一つ一つが重いのだ。
がんばれよー、
と彼の母ちゃんでなくても応援したくなる。
成長を促される年
息子さんはまた、これからの進路を決めていかなければならない学年になっている。
イギリスの学校システムは、若い段階から進路を振り分けられる。
まだ未分化で自分が将来何をやりたいのか見当もつかない年頃に、
「さあ早く決めろ」と強要されるのだ。
ドラゴン桜で東大理科2類を目指していた子が、2次試験間際になって文化1類に変更するというエピソードがあった。
イギリスではこんなこと、100%ありえない。
15歳になった頃にはもうコース変更は不可能、後戻りのできない厳しいしシステムなのだ。
自分のようになって欲しくないと願う親
この国に限った話ではないが、学歴がなく低賃金での働きを余儀なくされている人は多い。
イギリスでも大学への進学率は上がり、別に大学卒と言っても特別な時代ではない。
それでも職業の種類が細分化され、特化された知識や技能がないと高収入への道は遠い。
それだってAI化が進んだ先に、要らなくなってしまうものも増えていくだろう。
ブレクジットもあり、ますますお先真っ暗のイギリス。
親が子供の将来を心配するのは当然だ。
特に今の自分が仕事がキツく、不安定で先行きも分からない。
我が子には別の、何かもっと楽で安定した道を選んで欲しいと思う。
「選べる立場の人」になって欲しいと願うのだ。
自分のようにではなく。
負の連鎖が断ち切れない
息子さんも将来の方向性で迷う、他の子供たちと同じように。
そして親も不安だ。
でもどうしてやれるものでもない。
親がああしろこうしろと言っても、最終的に選んで行動するのは子供本人なのだ。
しかしその中でも、「全く選べない」立場の子供たちもいる。
家庭環境によって、義務教育を終えたら(終える前にも)働くしか道のない子も多数いる。
格差がどんどん大きくなるイギリス
そして十分な教育を受けられない子供の多くが、また何の保証もない厳しい条件の仕事につく。
今時はホワイトカラーの仕事だって、年ごとの契約更新のものも多い。
学歴があるからと言って安泰な仕事などない今の時代ではあるけど。
不安定さは下に行けば行くほど増していくのが常だ。
働いても働いても、一向に楽になれない。
親がアル中、また薬物中毒というケースも多い。
貧困で起きる虐待もある。
富裕層と貧困家庭の格差がどんどん広がっているイギリス社会。
負の連鎖を断ち切れないケースが多いのだ。
誰かが何かしなければ!
社会的弱者は差別の対象にもなり、ますます生きづらくなっていく。
一方それを助けたいと思う人たちもまた、少なからずいる。
そしてそれを行動に移す人が多いのも、イギリスのいいところでもある。
実際、国内外を問わず福祉に多額の貢献している国なのだ。
後進国への援助も、GDPに対して貢献金額が高いことは誇っていいと思う。
本書にも、貧困層の救済に尽力する先生の話が出てくる。
国だけに頼れないから私たちで何とかしましょう!と活動を始める人が必ずいる。
大人社会がそのまま子供に反映する
息子さんの社会に対する疑問や考えも深くなっていく。
学校での友達関係も社会の動きとは無縁ではない。
ブレクジット前、後を通してどれだかけイギリス社会が分断されたか。
親同士、子供同士の関係も立場も今までとは違ったものになっていく。
違う人種や階層が入り混じった子供社会ではこれがダイレクトに反映される。
イギリスでは子供だって、親がどの政党を支持しているか知っているのだ。
リスペクトとは?
息子さんの偉いところは、どんな人に対しても「リスペクト」を忘れないところだと思う。
彼はいつも自分の頭で考えている。
クラスメイトの面白からぬ態度に対しても、
自分を叱る父ちゃんに対しても、
地域の住民のホームレスへの対応に対しても、
スクラップを集める移民の家族に対しても、
もちろん自分を見守る母ちゃんに対しても。
リスペクトするということは、相手の立場になって考えることだと。
それをちゃんと知っている。
14歳ぐらいで、すごいなーと思う。
親御さんの背中を見てそうなったのかもしれない。
子供はどんどん大きくなる!
本書の後半では、すでに進学へのコースを選んだ息子さんの頑張る様子が描かれている。
側から見ていると危なっかしいような、つい口や手を出したくなってしまいそうな気持ち。
親の手を借りずに挑戦する、それを見守るにはこちらも勇気がいる。
それを私も思い出した。
子供が成長するということは、親から離れていくということ。
それがちょっと寂しくもあり、頼もしくもある。
上手く行くのか不安も尽きない。
子育てというのは複雑なものだ、終わりがあるんだか、無いんだか。
そう本を読みながらまた思った。
じいちゃんが泣かせる!
ブレディさん母娘が日本に里帰りエピソードがあって、これがまた良かったのだけど。
それは本書を読んでのお楽しみ、ということで。
しかしどうしたら、こんなに素直でいい子に育つのかなあ、
ブレディさん、教えてください!
(ちょっと遅いけど)
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」
おすすめしますよ〜。
次回作にも期待してます。
以下、蛇足です
この本、読みたいなあ〜と思っていたら、友達が日本から突然送ってくれたんです。
「テレパシーが通じたか!?」
と思ってびっくりした。
まずは友達に感謝!
早速本を開いて、
「あるある」
「わかるわかる」
「ほんと、そうだよねー」
と一気に読んだ。
イギリスの悪いところがたくさん炙り出されていたりもするけれど、
ここに描かれている息子さんの成長ぶりは救いです。
それに子供たちは逞しいなあ。
この子たちが将来のイギリス社会を作っていくんだしな。
と、
自分の子供のことや、将来の社会も併せて考えずにはいられない内容だった。
どうなっていくのか、予測もつかないな。
今のこの時代を3年前に誰が予想したろうか。
それでも生きる道を模索してくれよー、子供たちよ。
そう願わずにはいられない。