ガンバレお兄ちゃん!ママの愛はそこにある(気がつけばね)

今日も早朝から階下の男の子の大きな泣き声が聞こえてくる。
うわあああー、ぎゃあああああーーーと、よくそんなに大声を上げ続けていられると、あの小さな体から溢れ出るエネルギーと喉の強さに感心するほどだ。

これが殆んど毎朝繰り返される。
我が家は3階だが、実によく響く。

私たちのフラットがある建物の半地下階にオーストラリア人のカップルが引っ越して来たのは、3年ほど前だったろうか。

程なくベビーが生まれ、家族は3人になった。閑散としていた庭には花壇が作られ、笑い声がたびたび聞こえ、ホンワカとした幸せそうな空気が上まで立ち上ってくるようだった。

その後、私達が1年と8ヶ月ほどロンドンを留守にしてから我が家に帰ると、ベビーだった彼がスタスタ歩いているのを見て仰天した。
おまけに片言まで発しているではないか。に、に、人間になっている。

ベビーからトドラーになるまでの何て早いことか。
そういやそういうものだった、と改めて自分が子育てをしていた時のことを思い出そうとするが、もう全く定かでない。

そしてさらに驚いたことに、(驚くこともないんだけど)彼には弟君ができているではないか。
見たところまだ6ヶ月に届くかどうかの乳飲子だ。
うえええん、うええええええん、とこちらも結構なボリュームの泣き声で自分を主張している。

弟=ライバル登場かあ。
お兄ちゃんになった彼がしょっちゅう癇癪を起こしたように大声で泣いている、その理由がちょっと分かった。

ただでさえ2歳はTerrible2(魔の2歳)と呼ばれる第1次反抗期の時期だ。
自我が目覚めて来た頃に、彼には強力なライバルが出てきた。心穏やかでいられるはずがない。
赤ちゃん返りどころか、日々恐竜化している凄まじさが窺い知れる。

今朝も「うわあああああー」「………… 」「うぎゃああああー」「…………」と間欠泉の如く、激しく叫んだり静まったりを繰り返している。
はて今日は何だろう、と窓から階下を覗いてみた。

地階のフラットは庭付きだ。そこには彼専用の砂場、滑り台が据えられ、おもちゃのトラクターや消防車、真新しいスクーターにお絵かきパッドなどが一面に散乱している。

その隅で彼はひとり、大きな積み木のブロックを幾つも抱え上げようとしている。

ブロックが大きいので3つぐらいをやっと右腕で抱えこみ、地面に落ちているうちの一つを左手で取ろうとする。

が、屈んで地面のブロックを手にした途端に、せっかく抱えていたブロックの一つがこぼれ落ちてしまう。
ここでギャーと泣く。

また気を取り直して、取り上げたブロックを右腕に抱えこみ、落ちたブロックをまた左手で取ろうとする。
だが、屈んだ拍子に抱えていたブロックの一つが落ちてしまう…

また拾うとする、

また一つが落ちる、

また拾おうとする、

また一つが落ちる…とすっかり負の無限ループにハマっているのだ。

そりゃあ泣きたくもなるよね。
(こっちはもうホント、笑っちゃうんだけどさー)

彼はとうとうキレて、抱えていたブロックを全部地面に思い切り放り投げた。
そして天に向かってぎゃあああーーーー、と叫ぶ。
が、フト一瞬静まった。

彼がチラッと家の方を、天を仰いだ首を45度ほど傾げて見たのだ。
その時だけ泣き声のトーンがグッと落ちた。

ママに来て欲しいんだよねえ。
ママは慌てて走り出て来てくれるだろうか?

が、ママは来ない。

そう確認が済んだ彼は、今度はそれまでの何倍もの、張り裂けんばかりの声を天に向かって上げた。
うんぎゃああああああああああああーーーーーーー!
まさに恐竜の咆哮。
もうこの世の終わりかってくらいの勢いで叫び続けた、まあ1分ぐらいの間だけど。

彼が家のほうをチラ見した時、ベビーにかかり切りになっているママの姿が見えたのかも知れない。
授乳中ってこともあるしなあ。
とにかくママは今自分を助けに来ない、と瞬時に悟ったのだ。

彼は地面に散乱したブロックの一つ二つを思い切り蹴っ飛ばして、今度はうえんうえんうええええ〜えん、と弱々しく泣きながら家に向かって走って行った。
ママに抱っこして慰めてもらいんだよねえ。

頑張れ、長男君よ。
私も長女なので、君の気持ちが多少は理解できる。

庭中にあれ程のオモチャが溢れていても、彼が本当に欲しいのはママが自分を見ていてくれることなのだ。親の注意がいつも自分に向いていること。慰めて欲しい時に、すぐさま抱き上げてキスしてくれることだ。

そんなのママだって百も承知なんだけど。

ママの体は一つ、
そんな大人の都合、コドモは分かりたくもないよね、ウンウン。

後年彼が人生を振り返った時、覚えているのは、山ほど買い与えられたオモチャではなく、自分が助けが欲しい時に来てくれなかった、弟をあやすママの横顔かも知れない。
愛はあったんだよ、確かに。君は覚えていないかも知れないけど。

ほんと、子育てって難しいよなあ。

頑張れママ、彼らが自立する日まで。あとほんの20年。