「ママー、テラスハウスって日本の番組知ってる?」
日中は滅多に自分の部屋から出てこない我が家のティーンエイジャー。
その娘がケータイ片手に(いつも持ち歩いているけど)聞いてきた。
「テラスハウス?知らないなあ、ドラマ?」
「Yuuさんとか、山ちゃんとか、グループが同じ家に住んで色々なやりとりがある設定なんだけど。イギリスのリアリティTVみたいなエグいのじゃなくてね…」
と番組の説明から始める。
その番組に別に興味も無いし、今忙しいし(好きなサイトを見ているところだった)、大体学校の課題もそっちのけで何時間ユーチューブに費やしているんだ、と自分のことを棚に上げて、ついイライラ。
「一体いつそんな番組見てんの?」
と突っ込みながら話を聞いていると、その中のメンバーだった女の子が突然亡くなったと言う。
それを私に聞いて欲しかったのだ。
ちょっとヒヤリとした、と同時に思い当たった。
前の日に、BBCニュースサイトで、「日本のネットフリックススター、突然の死」と報道されていたのだ。
日本の芸能人の訃報をわざわざ記事にするなんて、ネフリではよく知られた人だったのだろうか?
そう思い記事を読んでみたのだけれど、最近のTV番組に疎い私には馴染みのない名前だった。
BBC記事には木村花さんが亡くなった経緯などは記されていなかったが、女子プロレスラーであったこと、最近はSNSで誹謗中傷が集中していた事実があることに触れており、自殺をほのめかすような書き方だった。
ムスメにその事を伝えると、「そうそう!」と興奮気味に頷き、
「私テラスハウス、何回か見たことある。ハナさんて、すごくいい感じの女の子だったんだよ。ナイーブって言うか、純粋って言うか………」
明らかに彼女の死にショックを受けている。
「そうだね、あっちゃいけないことだよね」
「うん、何が一番辛かったのかは分からないけど。死ぬことを選んで欲しくなかったよ。すごく悲しい。」
私はこう言う話を聞くと暗澹とした気持ちになってしまう。
イジメの話も許せないが、私はこの顛末の、それもメディアを通した一部の話しか知らない。
ハナさんがどういう女性だったのかも全く知らないし、どんな書き込みをされていたのかも知りたくない。
本当のところはどうだったのかなんて当事者以外に何が分かろうか。
ただこの話で何よりも、SNSの世界が大きく関わっていると言う事実が嫌なのだ。
22歳の、まだ人生のスタート地点に立っている年頃の女の子が自分の命を絶ってしまうなんて、その暗さと影響力の大きさが私には恐ろしい。
イギリスもロックダウンに入って早10週目。
元々SNS (イギリスではソシアル・メディアと呼ぶ)が生活の大きな割合を占めている現代の子供たち。
それが今は「殆ど全部」になってしまっている。
自由に外に出られない子供たちは、学校や友達とのやり取りも全てSNSを通して繋がっている。
自分たちに取っての「外の世界」が小さな画面の中にしか見出せないのだ。
亡くなったハナさんが最後にサヨナラのメッセージを残したと言うインスタグラムも、ティーン世代の、特に女の子達には欠かせない人気No.1メディアだ。
(イギリスの子供たち同士はビデオチャットもzoomよりはインスタを使うことが多い)
そこで自分に対する攻撃の一斉射撃があったらどうだろう。
これと言った理由もなくむくむくと湧き上がった悪意が、自分の周りだけでなく、どこか知らない遠くからも嵐のようにやってくるのだ。
いつ止むとも知れない暗く激しい攻撃の嵐。
目的はただ、そこでたまたま標的になっている「誰か」を傷つけることだけ。
攻撃の手を緩めない相手は、自分自身がコントロールできない鬱憤や怒り、不安や劣等感の吐け口をそこに見つけたいだけなのだ。
矛先が誰に向いているか、は大した問題ではない。
(そこがまた腹立つっ!)
「そんな匿名でしか何も言えない奴らなんか気にしなければいい。ネットなんかシャットダウンしろ」と多くの大人は言うかも知れない。
でも子供たちはその中で生きている。
SNSの中にだけ自分の居場所を見つけている子供たちがたくさんいる。
そこで作られるアイデンティティーは、本当の自分なのか、それとも別の存在なのか、多分子供たちも区別はついていない。
それでも、その中で見える姿こそが自分の全てだと信じている。今は。
「SNSが人生の全てじゃないよー」
「分かってるわかってる!」
って、ほんとかい。
そんなやり取りは何遍もしている。
少し前も、韓国の芸能人の女の子が何人かSNS上のイジメ絡みで自殺している。
Kポップ大好きなウチの娘はその時も大分ショックを受けていた。
ネット上で起きるイジメやイザコザは、自分にもいつでも降りかかるものとしてヒリヒリと感じているに違いない。
それでかどうか、ムスメ自身、インスタを一時やめていた時があった。
2週間も保たなかったけど。
それにしても人が死ぬまで追い込むかなあ。
この暗い群衆心理はどこから来るのか。
でも現在では大人の社会でも今同じようなことが起きていると思う。
子供の世界はその反映なのでは?
何かしらの問題を起こした「誰か」(多くは芸能人)がメディアを使った社会の一斉攻撃を浴びているのをよくニュースサイトなどで見かける。
(イヤな気分になるので普通は読まないけれど)
まるで人に非ず、みたいな激しい見出しがついている。
人が人を平気で断罪する風潮がますます高まっているように思う。
そして他人を裁く方は何故か皆、自分は正しい、と信じている。
イギリスでも最近、政府アドバイザーの要職についている人が世間の批判を一斉に浴びている。
自らが率いてきたロックダウン規制を、裏のプライベート生活では守っていない事実がスクープされたのだ。
これに対し、
「人に厳しい規制を強いておいて、自分は都合よく破っている」
と、野党もメディアも世間一般も非難轟々。
何しろ非難された当人が非を認めないし、辞職も拒んでいる。
ここまでは私も一緒に怒っていた。
でもメディアが彼のプライベートの深い部分にまで及ぶようになって来た。
BBCのサイトにも、彼のこれまでの細かな経歴だけでなく、彼が訪ねたという両親の名前やそれぞれの仕事にまで触れている。
いくらなんでもそれはないんじゃないか!?
政府の要職に就く彼自身の仕事内容と態度が問題なのであって、氏の両親の名前まで公表する必然性は全く無い。
(カミングズの態度が全く尊敬できないのは、今回の記者会見でもよーく分かったけれど)
メディアの向くべき矛先がズレてる!
てか、
これはもうただのイジメのレベル?!
そんでまあ、辟易として、私はこのニュースに関してすっかり興味を失ってしまった。
昨日までは、政府がどうするか、ジョンソン首相がどうこの場を扱うのか気になっていたけど。
なんかもう、どうでもいいしー。
それにしても娘よ。
ロックダウンが終わったら、そこはそれまでとは違う世界が広がっているだろう。
以前のように友達と出かけたり、集まって騒いだり、家に泊まりに行ったりは当分は出来ない。
人との関係を結ぶ新しいやり方が求められるだろう。
(まあ、ワクチンが出来て出回るようになるまでは)
でも本当の人との繋がりはデジタルで存在しているものではない。
それはツールの一つであって、繋がりそのものではないのだ。
それを体験していける世界を見つけて欲しいと思う。
そして疑問が生まれたら、SNSの中にだけ答えを探さないで欲しい。
本当の世界には、
ダメなら次、
ハイ、またその次、
ハイ、また次の次!
があることが、これからわかっていくからね〜。